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「子どもたちの力で授業を構築する『沖縄県佐敷小授業ベーシック』
~課題解決の糸口は子ども同士の対話から生まれる~
沖縄県佐敷小 具志堅 惣敏 教諭
1 『学習スタンダード』との出会い
3年前、西留安雄氏が沖縄に来県されて、私たちの南城市を訪れ、教師に向け講演をされた。その時に話された考えに衝撃を受けたのを覚えている。西留安雄氏が推進する授業法「学習スタンダード」との出会いは、のちに私たち佐敷小学校の子どもたちを一気に変えることとなる。今でも頭に残るのは、西留安雄氏が発した「教師が教えてやるなんておこがましい、子どもたちは自分たちで解決できるんだ。教師がしゃべることで子どもたちの思考を止め、やる気を奪っているんだ。」という言葉である。この言葉をきっかけに私たち佐敷小学校は、これまで行ってきた授業に本気で向き合い考えるようになった。教師が自分の授業に疑問を持つことが、授業大改革の第1段階目であった。
2 取り組み1年目の大きな壁
本校の児童は、素直で何事にも一生懸命取り組むことができ、多くの知識・技能を獲得してきた。しかし、「思考力・判断力・表現力」に課題があり、毎年授業改善をしてきたが劇的な変化には至らなかった。
そこで、「学習スタンダード」の授業法を取り入れ、学校全体で統一して授業改善をしてみようということになり、1年目がスタートした。はじめ1年は、正直大変であった。一番の壁は、教師の意識を変化させることであった。教師一人一人これまでの教師生活の中で確立してきた指導法があり、その大きな壁を崩すことが授業大改革の第2段階目となった。「学習スタンダード」では、授業の全てを子どもたちで行う。45分の授業の中で教師に与えられる時間は、約5分である。つまり、大袈裟にいえば、これまで45分子どもたちに向けて話し聞かせていたことを、5分で伝え、落とし込まないといけないのである。
そもそも「学習スタンダード」では、子どもが学習リーダーとなり、指示を出し、授業が展開していく。見通し→一人学び→ペア学び→班学び→班同士の学びというように、一人学びで考えたことをペアや班と議論しながら課題解決を図っていく。その最後にある「教師の修正」で今日の学びを確実なものにするのである。しゃべれないことがこんなに苦しいこととは思ってもいなかった私たちは、当初、じっと我慢して見守ることに苦戦を強いられ、どうしていいかわからない思いに押し潰されそうになったこともある。しかし、私たちは歩みを止めず、教師間で意見を出し合いながら「学習スタンダード」をやり続けた。
3 子どもの変化に歓喜
学習スタンダードを全校体制で取り組んですぐに子どもたちに変化が現れた。子どもたちが活き活きと学習にのめり込むようになったのである。なによりも衝撃的だったのが、学習に苦手を感じている子たちが、自分から輪に入り、みんなと一緒に授業に参加し、しかも活躍する場面が見られるようになったことである。これまで,私たち教師は,授業の中で学力の低い子たちをどのように参加させ,自信を持たせていくかということに長い時間,努力と工夫を重ねてきたはずである。それが,一瞬で解決したのである。
また,自分たちの力で学習課題をなにがなんでも解決しないといけないという自覚が子どもたちに芽生え,学級の仲間を意識するようになり,自然と助け合いが生まれ,一体感が生まれた。もちろん,自由にやりなさいという簡単な話ではなく,そうなるように方向付ける教師の見通しを持った学級経営や細かな教材研究があるからなせることである。学び方を学んだ子どもたちは強い。教師の教えた基本の学び方を基に,よりよい学びになるように自分たちで学びを進化させることができる。
この学習スタンダードに取り組んでいて,他の学校の先生方からよく耳にするのは,「学力の低い子はついていけないんじゃないかな。」である。私は,いつも「あんなに目を輝かせて授業に取り組むようになった子たちを目にして,なにが言えるだろうか。子ども自身の意識が変わり,分かりたい,もっとみんなと意見を言い合いたい,まとめが自分の言葉で書けたと思えるようになった子の学力は,自然と上がっていくはずである。あなたは,知識を教える前に,子どもたちが主体的に学習に向かうように気持ちを持たせることができているのだろうか。」と心の中で呟いている。
4 子どもが変われば教師も変われる
子どもの変化を目にし,成長を実感した時,スタート時に感じた新しいことに取り組む大変さが,前向きな気持ちに変わった。先生たちが「もっとこうしたらいいんじゃないか。」と発言するようになり,学校全体が子どもたちの学びのために一つになれたのを感じた。それからは,私自身も教材研究が楽しい時間となった。学年間だけでなく,異学年で教材について話をしたり,授業の振り返りを共有したりして,本気で子どもたちの学びと向き合った。今振り返ると,学習スタンダードは,子どもたちに学び方を学ばせるだけでなく,同時に,教師に教え方の視点を学ばせるものだと感じる。私たち佐敷小学校は,子どもたちと教師が一体となって学びを加速させることができたのだと確信している。
5 コロナ禍の中の学び
今年度は,コロナ禍の中,学校生活が大きく変わった。できることが限られ,授業の中でも制限がかかることも出てきた。しかし,子どもの学びを止めず,学習スタンダードを続けていくために,段階的に展開していくことにした。第1段階は,個人スキルアップに重点を置いて,付箋紙を活用して個々で構造化し,伝え合うことを,第2段階は,ペア学びに重点を置いて,ペアで話し合いながら学習課題を解決に向かった。ここで,第1段階で鍛えられた個々の能力が発揮され,ペアの話し合いが活発になり深まりがでてきた。第3段階は,班学びに重点を置き,ペア学びで学んだことを基に班で更に話し合いを深めた。ペアでの話し合いが深まったことで一人一人が学習課題について考えをしっかり持てるようになったことで,人数が増えた班でも,ぶれずに話し合いができるようになった。そして,最終の第4段階では,班同士が合わさり,より多い人数で話し合いを広げ深めた。世の中の状況を見て,選択して学習スタンダードを展開できるようにした。
6 今後の展望
学習スタンダードを3年間続けてきて,やっと教師と子どもたちが自分に自信を持ち取り組めるようになった。そこで,西留氏から教えていただいた「学習スタンダード」を学校独自の「佐敷小授業ベーシック」と名付け,展開していくことになった。佐敷小学校は,これまでもそうだが,これからも,授業を進めている子どもたちの意見に耳を傾け,よりよい学びとなるよう,教師一人一人のアイディアを取り入れながら,教師と子どもたちが一丸となって,学習と本気で向き合い,学習スタンダードを進化させていきたい。
◎ 西留の感想
「沖縄に行くのが楽しい」。それは見事に学習スタンダードを身につけた子どもたちや先生たちが待っていてくれるからだ。限られた日数しか訪問できないが、先生たちがスタンダードにかけた思いが子供の姿に映っている。だからどの子も目が輝いている。今後は更なる「進化型スタンダード」を極めることだと思う。「世に生を得るは、事を為すにあり」幕末を生きた坂本龍馬の自分の目で見て自分の思うように行動する姿が佐敷小の先生方と重なる。ぜひ沖縄県南城市立佐敷小学校を訪ね、「琉球の南風」を感じていただきい。
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